ミステリ

感想 |『旗師・冬狐堂一 狐罠』曲者たちのノンストップ騙し合い!

今回読んだのは北森鴻さんの「旗師・冬狐堂一 狐罠」です。

この作品は全4巻ある〈旗師・冬狐堂シリーズ〉の第一作目となっています。

「骨董」という馴染みのないテーマだったので「雑学が多いミステリ苦手なんだよな・・・」と、やや警戒して読み始めましたが心配無用でした。

骨董業界に生きる人々のプライドと狂気が引き起こす事件。

「騙される方が弱者」の世界を舞台にした本気の騙し合い。

登場する人物は誰も彼もが曲者揃い。最後の最後まで何が起きるのか読めない展開に一気読み必至の一冊です。

ヒリヒリする騙し合いの連続!

あらすじ

自身の鑑定眼を頼りに骨董を商う宇佐美陶子。ある日同業者の橘から仕入れた作品はプロの目を騙す「目利き殺し」が施された贋作であった。

橘への復讐のため、陶子は贋作による目利き殺しの罠で意趣返しをしようと準備を進めていく。

そんな中、橘の部下の女が死体で発見され陶子はその殺人事件に巻き込まれることとなる。

目利き殺しの罠と殺人事件の真相。

それぞれの思惑を胸に曲者揃いの騙し合いと駆け引きが幕を開ける──

復讐にギラギラする美女と底が読めない曲者たちの駆け引きがたまりません

『旗師・冬狐堂一 狐罠』のポイント

この作品のポイントを一言で言うなら「ノンストップの騙し合い」です。

「目利きがどれだけできるか=騙されないか」が物を言う骨董の世界を舞台に、主人公陶子による「目利き殺しの罠」と犯人不明の「殺人」という二つの事件を巡って騙し合いが繰り広げられます。

百鬼夜行、魑魅魍魎の棲家と言われる骨董業界の住人を相手にするため「贋作」へと手を出す陶子。

自身の矜持を守るためには手を汚すことも厭わない陶子のダークヒロインとしての成長にも注目です。

その他、こんな要素が好きな人にもオススメです。

ポイント

・天才同士の頭脳バトル

・知らない業界(古美術)の話を知るのが好き

・カッコいいおじ様が好きです(いろんなタイプのカッコいいおじ様が出るよ)

ミステリーとしての魅力

この作品の面白い点は「贋作による復讐」と「殺人事件の調査」いう二つの事件が並行して進んでいくところです。

通常のミステリでは基本的に殺人事件が主題に置かれ、登場人物の行動や伏線は「きっと殺人事件に関係するんだろうなぁ」と予想できます。

しかしこの作品では主人公が「贋作による復讐」という違法行為を進めながら、同時に「殺人事件」の調査を行なっていくので作中の登場人物の行動や伏線がどちらの事件に関わってくるのかが読めないのです

二つの事件が絡まり合いながら物語が進んでいくからこそ、登場人物たちの騙し合いは一層深まり読者目線では誰も彼もが怪しく見えてきます。

復讐に殺人事件の調査にと「陶子さんのやることが、やることが多い!」と心配になりました。復讐に専念させてあげて! 

強キャラ揃いの登場人物

登場人物たちも本作のミステリーとしての面白さを加速させています。

この作品が凄いのが出てくる登場人物が強キャラばかりなのです。

宇佐美陶子

「冬狐堂」の屋号で骨董を商う主人公。クールビューティー。けっこう容赦ない! 

橘秀曳(たちばな しゅうえい)

陶子の復讐相手。終盤まで陶子さんの勝ち目が見えないレベルで老獪すぎた。

化け物揃いの骨董業界でも恐れられる人物。

細野

大英博物館帰りの天才。橘の協力者。煙草を吸うシーンがカッコいい。

「暗躍」という言葉が似合いすぎる謎多きキャラ

プロフェッサーD

陶子の元夫であり目利きの師かつリカちゃん人形研究家。

イケおじ力と目利き力が作中トップレベル。つまり強い。

鄭 富健(てい ふけん)

保険会社の美術監査部所属。贋作を掴まされた陶子に接近する。

 裏で何考えているのか読めない。キャラの説明がワンパターンと思われるかもだけどほんとこんなキャラばっかり。

根岸

殺人事件を追う切れ者ベテラン刑事。誘導尋問シーンがキレッキレで最高にかっこいい。

カタカナのコンピューター用語に弱い。年下の相棒との掛け合いも◎

汐見老人

天才オブ天才。狂気のレベル。彼の天才っぷりは読めば分かる

800年の時を再現する贋作作り

今作で殺人事件と同じかそれ以上の存在感を放っているのが「贋作」というキーワードです。

主人公の陶子は橘への罠として、約800年前の「蒔絵文箱」の贋作作成をある人物に依頼します。

しかし一流のプロや美術館を騙すレベルの贋作を作るためには二つの関門を突破しなければなりません。

一つ目が科学鑑定。X線を始めとした最新機器による鑑定は骨董品に使われた材料の年代を暴きだします。

二つ目は人間の目。作られた時代の文化や環境に矛盾していないかという歴史的考察。そして感動するほどの美術品としての完成度が求められます。

いやいや、冷静に考えて800年分の歴史の重みをゼロから作れるわけが・・・」と思っていたら、

ある天才がそれをやってのけてしまうのです。

贋作作成の過程は本当に凄まじい執念を感じられるのでぜひ読んで確かめてみてください。

ミステリパートもめっちゃ面白いのですが、個人的には贋作作りパートが一番狂気を感じられて好きでした

まとめ

今回は北森鴻さんの「旗師・冬狐堂一 狐罠」を紹介しました。

魅力的な登場人物たちによる最後まで先の読めない騙し合いを楽しむことができる作品です。

また、骨董品(古美術)が持つ歴史の重みと美しさを感じさせる描写には全く興味がなくても思わず引き込まれます。

そして、善であれ悪であれ芸術のために尽くす者たちの業を感じられる作品となっています。

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